当院に勤務して感じた事 病棟主任

 私は精神科病院での勤務経験が今年で15年目となる看護師です。精神科病院で勤める前までは、5年程外科や内科の病院で勤務していました。私が精神科病棟で勤務し始めて一番驚いた事は「治療に対する結果を急がない」と感じた事でした。
 そう感じたのはあくまで私の主観的な意見でしかありませんが精神科医療に携わって真っ先に強く感じました。もちろん入院されている患者様と外来で治療を受けている患者様では治療方法が違うでしょうし、患者様それぞれに抱えている疾患や治療する医師によっても治療方法は変わってくるでしょう。ですが外科・内科の入院病棟に在籍していた時は入院してあっという間に治療方針・治療スケジュールが決められそれに沿う結果が出るように治療内容やリハビリテーションが行われました。検査も頻回に行われ思うように結果がでていない時には医師はめまぐるしく治療内容を変更し、薬が調整されました。
 それはもちろん正しい事です。医師をはじめ我々医療職者は患者様が少しでも早く良くなるように努め社会復帰できるように援助していくことが求められている業務なのですから。私も医療とは、治療とは迅速が尊ばれ停滞が忌避されるものであると教えられそれを当たり前と信じ毎日めまぐるしく変化する治療内容に疑いもせず業務を行って来ました。              
 当院で勤務し始めて医師から「調子はどうですか?」を問われ「変わりありません。」と返答する患者様に対して医師は「そうですか。ではこのまま経過を見ていきましょう」と声をかけていました。私は…驚きました。今でも鮮明にこのやり取りを覚えています。
 精神科は他の科と比べて平均入院日数が長く治療に時間を要するという事は知っていました。それは治療に対する経過が外科のように傷の状態で判断したり、内科のように検査結果が数字で出て結果を可視化できる分野ではない為、手探りで治療経過を判断していかなくてはならず、慎重にならざるを得ないせいだと私は考えていました。当然それも理由の一つなのでしょうが、それだけではなく、医師は患者様が退院後に不自由することなく日常生活を送ることができるようになっているかどうか、という事を個人個人の環境や生活背景を加味しつつ、判断しているからでありました。安易に退院へ結びつけることは、必ずしも患者様の為になるとは限らず、結果を急がず見守るように治療を行っていく、そのような分野があるのだと私は精神科で勤務することで知ることが出来ました。
 それから15年が経ち、多くの患者様と携わっていく機会を得る事が出来ました。同じ病名がついていてもそれぞれに違うものを抱え治療と向き合っている患者様方をこれからも変わる事無く、結果を急がず、見守るように関わっていくことができればと私は思っています。