アルコール依存症

当院のアルコール依存症への治療の取り組みについてご紹介いたします。

 

はじめに

 

入院される皆さまは、長年のアルコールの飲用(使用)により、知らぬ間に「依存症」という病気にかかり、身体のみならず精神的にも、社会的にも様々な困難を抱えて入院されます。一度この病気にかかると、回復のためには皆さま自身の様々な知恵と労力を要しますが、決して投げやりになったり回復をあきらめる必要はありません。数多くの同じ病気の仲間が回復を遂げて、再び社会や家庭で活躍しています。

皆さまの回復への願いを受けて、私たち(病棟スタッフ)も皆さまの回復の手助けになりたいと思っています。

病棟での入院治療の目的や内容を十分ご理解いただき、入院生活が充実したものとなり、皆さまが回復の一歩を踏み出されることを願っております。各自が自身の病と対峙し治そうという目標が大切になります。
 

アルコール依存とは

 

アルコール依存という病気は、長年アルコールを飲用した結果、脳に「依存」という障害が生じ、正常な認知や判断ができず、結果として通常の家庭生活や社会生活ができなくなる病気です。
詳しいことは、病棟のプログラムの中で、この病気についていくつかの特徴をわかりやすく解説していきます。自分自身の体験を振り返りながら、また同じ病気の仲間の話から学んでみてください。

入院について

 

高知ハーモニー ホスピタルでは、A-3病棟(精神科一般)をアルコール依存の治療病棟としており、入院期間は3カ月(13週間)を原則としております。
ここでの入院治療の主な目標は、次に掲げるものです。

・まず、アルコールで傷ついた身体や心を癒してください。
・病気からの回復のためには、断酒が必要です。これまでのあなた自身の体験や仲間の話から、アルコールをコントロールして使用すること(節酒)が困難であることを思い起こしてください。
・断酒は、その思いだけでは現実には難しい面があります。どういった具体的な行動が有効なのかを考えてください。
・一人で断酒を続けるのは困難です。体験を語り合え、思いを分かち合える仲間の力が必要であることを学んでください。
・回復を願う気持ちを忘れずに、充実した入院生活になるよう一緒に頑張りましょう。

皆さまの憩いの場である東屋「あんず」 
 
■アルコール離脱・身体治療期(入院後約2週間)

入院後2週間前後はアルコールを身体から抜くために、様々な離脱症状が起こり、また臓器障害もあって身体的に苦しい時期です。特に入院後1週間は、吐き気や下痢のため食事も十分とれず、不眠も続くことがありますが、徐々に確実に回復します。この期間は、離脱症状を軽くするような薬と肝臓の薬の服用、水分やビタミンなどを補う点滴を行います。また、身体の状態を調べるためにいろいろな検査も合わせて行います。焦らないでまず安静を心がけてください。

■ARP(アルコホリズム・リハビリテーション・プログラム)期(3~13週目)

離脱期を過ぎ、身体的に回復してくると、逆に自信にあふれ、いつでも断酒できるような自信が出ることがありますが、過信は禁物です。この時期は特に慎重に過ごさなければなりません。ここから退院までは飲酒習慣より脱し、これまでのアルコールとの関係や自分の生き方をきちんと振り返り、断酒の意志を固め、退院後の断酒生活に必要な知識と知恵を学びましょう。
同じ病気に悩む仲間から得る情報も有用です。また、体験を語り合え、思いを分かち合える仲間の力が必要であることを学んでください。
外出・外泊は、入院1カ月以降より許可されます。ただし、病棟の主要なプログラムに支障のない曜日または週末や休日を選んでください。主治医の許可が必要です。家族や社会との関係を徐々に修正し、退院に向けて準備をしてください。
ただし入院期間を過ぎても身体的および精神的に治療の延長が必要な方、または退院の準備が整っていない方は、引き続き入院していただきます。その間、場合により療養型病棟に転棟していただくこともあります。

入院治療プログラム

 

アルコール依存という病気は、長年アルコールを飲用した結果、脳に「依存」という障害が生じ、正常な認知や判断ができず、結果として通常の家庭生活や社会生活ができなくなる病気です。
詳しいことは、病棟のプログラムの中で、この病気についていくつかの特徴をわかりやすく解説していきます。自分自身の体験を振り返りながら、また同じ病気の仲間の話から学んでみてください。

■アルコールミーティング

皆さんは他の人と思いを分かち合ったことがありますか?
他の人に共感したり、自分の話に共感してもらうという経験は何物にも代えがたいものです。
週1回のミーティングではアルコールに関係のあるテーマに沿って、ご自分の思いをお話しください。
✩ 日時:毎週金曜日 午後3時30分~午後5時00分
✩ 場所:A棟6階 デイケア室 もしくは A棟3階 病棟内

■認知行動療法

認知行動療法とは「出来事や物事に対する認知(=見方や考え方、価値観、こだわり、認識)」に注目していく治療法で、「今までの出来事や物事に対する認知を自分自身で検討し、その認知を変えることで、これからの行動や生活を改善しようとする治療法」です。といっても難しいことではありません。わかりやすいテーマを設定して、ミーティング形式で行います。そのミーティングを通じて、皆さん自身で「お酒」に対する認知を修正し、断酒に向けて励んでいただくことを期待しています。
なお、認知行動療法はアルコールミーティングの中で行っています。

■アルコール行軍

行軍とは、行列を成して目的地に向かってウォーキングすることです。仲間づくりと心身の健康増進を目的として毎週月曜日に実施します。入院後1期(離脱期)の身体的治療を経て体調が整えば、主治医の指示によって参加することになります。雨天時は実施されませんので、代わりに作業療法に参加していただきます。
✩日時:毎週月曜日 午前9時30分~午前10時30分

■アルコール作業

グループで課題に取り組み身体を動かすことで、アルコールによって傷ついた心身の健康を回復し、規則正しい生活を目指します。また仲間意識を高め、退院の準備をすることも目的としています。

作業のプログラムは、様々ありますが、特に農耕・園芸、屋上庭園などをお勧めします。作業療法士が担当しております。入院後1期(離脱期)の身体的治療を経て体調が整えば、主治医の指示によって参加することになります。
月曜日の午前中は、アルコール行軍と重なりますが、身体的に可能ならばできるだけアルコール行軍を優先してください。
✩作業療法:月曜日~金曜日(午前9時30分~午前11時30分・午後1時30分~午後3時30分)
✩屋上庭園(A‐6階):週1回 火曜日 午前9時30分~午前10時45分
✩農耕・園芸(屋外):週2回 月曜日・木曜日 午前9時30分~午前10時45分
 
当院敷地内にある農園

 
■アルコールビデオ学習

依存症の治療は自らの病気を正確に理解するところから始まります。病気と立ち向かうには病気のことをまず知らなければなりません。ビデオに登場する具体例をもとに仲間とともに勉強しましょう。
✩日時:毎週月曜日 午後2時00分~午後3時00分
✩場所:A棟3階 デイケア室

■院内断酒例会

自助グループとは回復しようとする仲間の集まりです。アルコール依存には断酒会とAA(アルコホーリクス・アノニマス)があり、それぞれ地域でミーティングを行っています。
当院でも毎週月曜日に院内断酒例会を実施しております。依存から回復するために仲間との出会いは大切なことです。この機会にぜひ、経験者であり同じ病を回復しようとしている先輩たちの話に耳を傾けてください。
自助グループへの参加もプログラムの一環です。必ず参加してください。
☆日時:毎週月曜日 午後6時30分~午後8時00分
☆場所:A棟3階 デイケア室

■抗酒剤

アルコールを口にすると顔が赤くなったり、吐き気がしたり、動悸がしたりする体質の人がいますが、このような人は、アルコールを飲めません。抗酒剤の働きは、アルコールの代謝酵素の働きを抑えることによって、人工的にアルコールを飲めない体にすることです。このことを知っておくことによって、抗酒剤を服用しておけば、飲酒欲求を抑えることができます。飲酒欲求から自分の身を守る手助けとして多くの仲間が服用しています。また家族の前で飲むことで家族の不安解消にも役立ちます。
抗酒剤は、入院3週目以降、自身の再飲酒への不安がある方、特に外出・外泊の際などに希望に合わせて処方しています。

療養上の注意

 

アルコール依存治療病棟は、A-3病棟(閉鎖病棟)です。
依存から回復するために自由な雰囲気の中で心身を鍛え、自分の病気について正しい認識を得てください。病棟生活を続けていくために、日課や規則があります。各自、自立して行動するよう心がけてください。
わからないことや困ったことがあれば、いつでもお気軽に主治医または病棟スタッフにお尋ねください。

退院後について

 

入院中に断酒を決意しても、普段の生活に戻ると様々な飲酒の誘惑と戦い、断酒を続けることが困難な場合も多々あります。断酒そのものが人生の大仕事と言っても過言ではありません。そこで次のことをお勧めします。
1) 少なくとも3カ月~1年を目途に通院されることをお勧めします。
もし通院がない場合は、電話などにより受診を勧めることがあります。遠方の場合には近くの病院、クリニックを紹介します。
2) 断酒し始めの再飲酒の不安・危険がある方には抗酒剤の服用をお勧めします。
3) 各地にある自助グループへの参加をお勧めします。
最寄りの自助グループだけではなく近辺の例会・ミーティングに可能なかぎり参加することは意義のあることです。
4) 再飲酒することがあった場合、往々にして自ら閉じこもり隠れて飲酒が続き本格的な再発につながります。
障害が大きくならないうちに勇気を振り絞って病院や自助グループに援助を求めることをお勧めします。

 

ご家族の皆さまへ

 

アルコール依存症は家族を巻き込んで人間関係を破壊していく病気です。
いったん失われた信頼関係は、お酒をやめただけでは回復しません。よって依存症からの回復は本人の努力だけでは困難です。家族の理解と協力が必要です。
さらに依存症で苦しむのは本人以上に巻き込まれている家族である場合も多々あります。家族は世間体の悪い思いをしたり、将来の生活に対する不安や暴力への恐怖などもあり感情の不安定な状況に陥ってしまうこともあります。このため外来にて家族カウンセリングを行っております。毎日の生活の中で困っていることや、生活の工夫について自由に話し合える場です。ぜひ、お気軽に足を運んでください。